坊っちゃん近辺

お久しぶりとなってしまって申し訳ない。急でアレだが、ちょっと気になったことがあるので:
江川達也氏が夏目漱石坊っちゃん』を描く…というのは有名な話であろう。そもそもあたしは漱石好きだし、『坊っちゃん』は作品を扱った大学時代の授業中、爆笑してしまったという経験をもつこともあり、漱石の作品でも特に思い入れがある。更に言えば、漱石の作品は是非映像化して頂いて、多くの人に観てもらいたいと考えている。高校でも、なんだかんだ言って、教科書に載っている作家の中で漱石は人気があったのだから、そのあたりから原作を探してくるよりは売れると思う。もちろんそれなりの作り込みは必要だろうが、ここまでの文豪の作品が意欲的に映像化されないのは悲しいと思うのだ。
話がそれ気味だが、『坊っちゃん』がマンガになるのは嬉しい。どのように描くのか楽しみ、とも思っている。しかし、まことに残念ながら、

を読む限り、この期待は裏切られる可能性が濃厚というのが正直な所だ。
江川氏、完全に往なされている。夏目房之助氏は話を膨らませずに、とりあえず相手をしているだけだ。知識量と分析経験があまりに違いすぎる。「対談」ではなく「インタビュー」なら、まだ納得できたかも知れない。「1年前に初めて漱石を読んだ」という江川氏に

夏目 漱石のどこがおもしろかったの?

と言うのも、前後の流れを見ると、まるで面接官が学生に聞いているようである (「インタビュー」どころか「面接」か)。「一体なんでなの?」という冷めた質問に聞こえるのだ。
全体を通して、ともかく、夏目氏の「○○なんだよ」に対して、必死で「でも…」「でも…」と持論を展開する江川氏が痛々しい。変に「儒教」など持ち出さずに、「如何に描くか」に焦点を当てれば、専門分野のはずであるし、十分な議論が出来たのに…と思うものの、

マンガ版『坊っちゃん』と、加藤鷹主演のAV版『裏・坊っちゃん』のメディアミックスを考えたんです。

辺りの下りを読む限り、その方面でも完全に暴走してしまっている。夏目氏でなくとも

AVかよ!(笑)

と叫ぶ以外の反応は無理と言わざるを得ない。『坊っちゃん』を原作に、何を完成させようとしているのか、まるで分からないのだから。
もちろん、ここに書かれているやりとりを真に受けるのは良くない。いろいろと編集は加えているわけであるし、そのせいで言わば「インタビュアー」たる夏目氏の発言が短くされて、「面接官」のように見えるだけかも知れない。何せ、同じペイジ中にあまりに大きな矛盾があるのだ。2ペイジ目を見て頂きたい。上部にはこうある:

あの時代、漱石ほど苦悩する知識人は居なかった (夏目)

ずいぶんと身内を褒める夏目氏だなあ、とこれを見た瞬間は思ったが、本文にはこうあるだけだ:

夏目 そう、あの時代に、あれほど悩む日本人は知識人以外にいなかった。(略)

こちらなら (現在の) 夏目氏の発言としては理解できる。どちらが本当の発言かは分からない (カットされただけで、両方に言ったのかも知れないし)。このような編集をする記事は全体的に信用できないが、夏目氏の発言をなんとか拡大解釈 (?) し、漱石の威光や、あるいは『坊っちゃん』そしてマンガ版を本来より素晴しいものに見せようとしているように見えるのだが、如何だろうか。下手なプロパガンダだなというのが正直な感想である。
まとめとして:

夏目 なんだ、今回の『坊っちゃん』は、江川達也の自伝だったんだ(笑)。

この発言がとても冷静なツッコミに見える。「ああ、『坊っちゃん』とあまり関係なく、自分のこと描いてるのね」と。