昨日、『攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG Individual Eleven』(asin:B000BVARGU;以下、IE) が届いた。いくらかまとまり過ぎの感はあるが、最後の最後で、やはり「僕等は皆…」で泣きそうになる。
攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX The Laughing Man』(asin:B0009XTEIM;以下、LM) と比較すると、まとまりかたとしてはIEが遥かにまさっている。カッコいいアクションシーンのオンパレードで、もう少しブラッシュアップして動きを付ければ、一流の映画にもなろう。LMは難解である。元々の話が簡単でない上に、必ずしも解りやすい再編集をしていないからである。IEはシリーズを見ていない人でも、ストーリー・設定についていけるのではないであろうか? いくらか、唐突に説明くさいシーンがあったとしても。
しかしながら、私はLMを評価したい。LM単体、初見ではストーリーを理解することは難しいと思う。だが、登場人物の裏側、その考えなどを、意図的かどうかはともかくとして、ちゃんとしたキャラクターとして描ききっている。アオイはカッコいい。素子も課長もトグサも、その言動に一貫性があり、説得力がある。ともかくカッコいい。
一方、IEはストーリーとアクションを描くのに精一杯で、キャラクターを描けていない。一瞬の回想シーンやセリフでは、素子とクゼの微妙な距離感も、タチコマにゴーストが宿る展開も描ききれない。LMでは、アオイが、そして模倣者が生まれる過程、そのシクミを描けていた。IEでは、捏造された書物「個別の11人」には触れられもしない。シクミが置き去りになっている。残念ながら、クゼも素子もバトーもカッコよくない。一人*1も同様である。
IEの、このバージョンが製作側の意図だとしたらどうだろう? 本当の「英雄」は誰なのだろう? 当然、一人*2ではないが、クゼでもない。タチコマである。しかし、やはり、苦言を呈して申し訳ないが、その背景描写は足りない。
蛇足だが、(電脳空間上を含め) タチコマ達は「支援AI」と素子だったかに呼ばれていた。士郎正宗攻殻機動隊2 MANMACHINE INTERFACE』(asin:406334441X) のマックスだとかあの辺りのタコ達も「支援AI」という呼称が良いのだろうか?

翌日追記

タチコマが英雄となったということは、結果的に合田はその計画を完遂したということとなる。《攻殻》は達観し、他者を圧倒する力を持った主人公達によるドラマである。これが「ドラマ」として成立するためには、彼らは「カッコよく」なければならない。完膚なきまでに圧勝しなければならない。弱いものへの感情移入ではなく、強いものへの憧れにより、ドラマは突き進んでゆく。
『2nd』では作戦上、彼らは負ける。英雄の座をタチコマに譲るしかない。しかし、公安9課とクゼとの背景が詳細に、しかし含みを残しつつ描写されることにより、彼らは「汚いが英雄的な過去を持つカッコいい奴等」となる。『2nd』で、圧倒的な主人公達を抱えたドラマを支えていたのは、この部分である。しかし、IEではここが抜けてしまっている。カッコいいのはバトーの「素子ー!!!」の叫びと、タチコマの最期だけである。
従って、IEが製作者の意図だとすれば、タチコマが英雄であるしかない。公安9課でもクゼでもなく。

*1:「かずんど」と読むべし

*2:くりかえずが「かずんど」である